数学Ⅰ : 図形と計量 三角比を単位円で表す

アドバイス

三角比を円で考えることは多いけど、「何で円が出てくるのか分からない」っていう生徒も多い。これが納得できてないと困ったことも起こるので、ここで復習しておこう。

直角三角形と三角比

まず、三角比の定義について復習しよう。

定義

図A
三角比を単位円で表す 解説図A

図Aのように$\theta$が鋭角のときには、
$\left\{\begin{array}{l}
\sin\theta=\displaystyle \frac{\text{高さ}}{\text{斜辺}}\\
\cos\theta=\displaystyle \frac{\text{底辺}}{\text{斜辺}}\\
\tan\theta=\displaystyle \frac{\text{高さ}}{\text{底辺}}
\end{array}\right.$式A

だった。

図B
三角比を単位円で表す 解説図B

例えば$\theta=30^{\circ}$のときには図Bのような直角三角形が考えられるから、
$\left\{\begin{array}{l}
\sin 30^{\circ}=\frac{1}{2}\\
\cos 30^{\circ}=\frac{\sqrt{3}}{2}\\
\tan 30^{\circ}=\frac{1}{\sqrt{3}}
\end{array}\right.$
だし、図Cのような辺の比が$3:4:5$の直角三角形のときには、角度を$\alpha^{\circ}$とすると、

図C
三角比を単位円で表す 解説図C

$\left\{\begin{array}{l}
\sin\alpha^{\circ}=\frac{3}{5}\\
\cos\alpha^{\circ}=\frac{4}{5}\\
\tan\alpha^{\circ}=\frac{3}{4}
\end{array}\right.$
だ。

三角比の拡張

でも、上の定義は分かりやすいけど不便なことも多い。例えば$90^{\circ}$以上や$0^{\circ}$以下の三角比は作れないとか。
なので、ちょっと工夫してみる。

図Bと図Cのの三角形を、斜辺が$1$になるように縮小してみる。
図Bは斜辺が$2$なので$\displaystyle \frac{1}{2}$に縮小すればいいから、それぞれの辺を$2$で割る。

図D
三角比を単位円で表す 解説図D

すると、縮小した三角形の
斜辺:$\displaystyle \frac{2}{2}=1$
高さ:$\displaystyle \frac{1}{2}=\sin 30^{\circ}$
底辺:$\displaystyle \frac{\sqrt{3}}{2}=\cos 30^{\circ}$
となって、図Dができる。

図E
三角比を単位円で表す 解説図E

同じように図Cの三角形の各辺を$5$で割ると、縮小した三角形の
斜辺:$\displaystyle \frac{5}{5}=1$
高さ:$\displaystyle \frac{3}{5}=\sin\alpha^{\circ}$
底辺:$\displaystyle \frac{4}{5}=\cos\alpha^{\circ}$
となって、図Eができる。

図F
三角比を単位円で表す 解説図F

このことから、斜辺が$1$の直角三角形の
高さ$=\sin$
底辺$=\cos$
となりそうだけど、考えてみれば当たり前だ。もとの三角形の高さと底辺をそれぞれ斜辺で割るから、結果的に式Aの計算をしたことになる。
よって、必ず図Fのような関係になるといえる。


ここから円がでてくる。

図Fの三角形の頂点Bを、座標平面の原点におくと、図Gのようになる。

図G
三角比を単位円で表す 解説図G

斜辺の長さは$1$なので、頂点Aは必ず原点中心・半径$1$の円(これを単位円という)の周上にある。
頂点Aは、原点から$x$軸方向に$\cos\theta$,$y$軸方向に$\sin\theta$移動した点だから、座標は
$(\cos\theta$,$\sin\theta)$
になる。

以上より、三角比の新しい定義ができる。

定義

図H
三角比を単位円で表す 解説図H

座標平面において、原点から、$x$軸から左回りに$\theta$の角度で引いた半直線(図Hの緑の線)と、単位円との交点を考える。
この交点の
$x$座標を$\cos\theta$ $y$座標を$\sin\theta$ $\displaystyle \tan\theta=\frac{\sin\theta}{\cos\theta}$なので、
$\displaystyle \frac{y}{x}=$半直線の傾き$=\tan\theta$ とする。

新しい定義を使えば、$90^{\circ}$以上や$0^{\circ}$以下の三角比も作れるし、三角方程式も三角不等式も図で考えられる。

tanθ

新しい定義が出来たけれど、$\tan\theta$の$\displaystyle \frac{y}{x}=$傾きってのがちょっと使いにくい。
なので、もうちょっと工夫を続けよう。

方法1:直角三角形を縮小して考える

さっきと同じように、直角三角形を縮小して考えてみよう。
さっきは$\sin\theta$,$\cos\theta$はそれぞれ$\displaystyle \frac{\text{高さ}}{\text{斜辺}}$,$\displaystyle \frac{\text{底辺}}{\text{斜辺}}$だったので、分母を$1$にするために斜辺を$1$に縮小した。
今度は$\tan\theta$が$\displaystyle \frac{\text{高さ}}{\text{底辺}}$なので、底辺が$1$になるように縮小してみよう。

図Bの三角形は底辺が$\sqrt{3}$なので、$\displaystyle \frac{1}{\sqrt{3}}$に縮小すればいいから、それぞれの辺を$\sqrt{3}$で割る。

図I
三角比を単位円で表す 解説図I

すると、縮小した三角形の
底辺:$\displaystyle \frac{\sqrt{3}}{\sqrt{3}}=1$
高さ:$\displaystyle \frac{1}{\sqrt{3}}=\tan 30^{\circ}$
斜辺は省略

となって、図Iができる。

図J
三角比を単位円で表す 解説図J

同じように図Cの三角形の各辺を$4$で割ると、縮小した三角形の
底辺:$\displaystyle \frac{4}{4}=1$
高さ:$\displaystyle \frac{3}{4}=\tan\alpha^{\circ}$
斜辺は省略
となって、図Jができる。

図K
三角比を単位円で表す 解説図K

このように、底辺が$1$の直角三角形の
高さ$=\tan$
となる。


図L
三角比を単位円で表す 解説図L

図Kの三角形の頂点Bを、座標平面の原点におくと、図Lのようになる。
このとき、点Aの座標は
$(1$,$\tan\theta)$
なので、
原点から$\theta$の角度で引いた直線と、直線$x=1$との交点の$y$座標が$\tan\theta$ となる。

方法2:傾きから考える

図Hの緑の直線は、傾きが$\tan\theta$で原点を通るので、式は
$y=(\tan\theta)x$式B
である。
$x=1$のとき、式Bに$x=1$を代入して、
$ y=\tan\theta$
となるから、$x=1$のときの$y$座標が$\tan\theta$である。
よって、
原点から$\theta$の角度で引いた直線と、直線$x=1$の交点の$y$座標が$\tan\theta$ といえる。
当たり前だけど、方法1と同じことが分かった。

まとめ

図M
三角比を単位円で表す 解説図M

図Hと図Lを合わせると図Mができる。参考書などで見慣れた図だけど、上で説明したような考えで作られている。この図はよく使うから、ちゃんと理解してほしい。

アドバイス

最後に、よく見る間違いをひとつ。
$90^{\circ}\leqq\theta\leqq 180^{\circ}$の角を考えるとき、図Nのように$x=-1$のところに直線を引いて、オレンジの点の$y$座標を$\tan\theta$にする人がいる。気持ちは分かるけど、これは間違い。
緑の線を右に延ばして、$x=1$との交点の$y$座標が$\tan\theta$だ。

図L
三角比を単位円で表す 解説図L