数学Ⅰ : 図形と計量 直角三角形と三角比

例題

$\mathrm{AB}=3$,$\mathrm{BC}=4$,$\mathrm{CA}=5$の直角三角形$\mathrm{ABC}$について、内接円の中心を$\mathrm{O}$とし、円$\mathrm{O}$が$\mathrm{BC}$と接する点を$\mathrm{D}$とする。
また、線分$\mathrm{AD}$と円$\mathrm{O}$の交点のうち、$\mathrm{D}$と異なる点を$\mathrm{E}$,$\mathrm{E}$から$\mathrm{BC}$に下ろした垂線の足を$\mathrm{F}$とする。
このとき、以下の値を求めなさい。

(1) 円$\mathrm{O}$の半径
(2) $\mathrm{AD}$
(3) $\mathrm{DE}$
(4) $\mathrm{DF}$,$\mathrm{EF}$
(5) $\tan\angle \mathrm{BCE}$

(センター試験 2010年度本試 改)

アドバイス

センター試験では、時々「簡単すぎて解けない」っていうことが起こる。
例えば、次の例を見てもらいたい。

(i) $\mathrm{AB}=3$,$\mathrm{AC}=2$,$\angle \mathrm{ACB}=90^{\circ}$の直角三角形$\mathrm{ABC}$において、$\sin\angle \mathrm{ABC}$を求めなさい。
(ii) $\mathrm{AB}=4$,$\angle \mathrm{ACB}=90^{\circ}$,$\displaystyle \cos\angle \mathrm{ABC}=\frac{3}{4}$の直角三角形$\mathrm{ABC}$において、$\mathrm{BC}$を求めなさい。

(i) の三角形$\mathrm{ABC}$は図Aのようになる。

図A
直角三角形と三角比 解説図A

$\displaystyle \sin\angle \mathrm{ABC}=\frac{\mathrm{A}\mathrm{C}}{\mathrm{A}\mathrm{B}}$
なので、
$\displaystyle \sin\angle \mathrm{ABC}=\frac{2}{3}$
である。

また、(ii) の三角形$\mathrm{ABC}$は図Bのようになる。

図B
直角三角形と三角比 解説図B

$\displaystyle \cos\angle \mathrm{ABC}=\frac{\mathrm{B}\mathrm{C}}{\mathrm{A}\mathrm{B}}$
なので、
$\displaystyle \frac{3}{4}=\frac{\mathrm{B}\mathrm{C}}{4}$
$\mathrm{BC}=3$
である。

目まいがするほど基本的で簡単な問題だけど、実はセンター試験には時々このタイプの問題が出る。で、試験本番でテンパってたりすると、簡単すぎて解き方に気づかなかったりする。冗談みたいだけど本当の話だ。
個人的に印象に残っているのが、2010年度本試・数IAの第3問だ。当時の私の生徒にも、簡単すぎて解けなかったり、時間を取られたりした受験生がいた。
例題に載せたのは、その問題から必要な部分を抜き出したものだ。図を描きながら解いてみてほしい。

(1)

図C
直角三角形と三角比 解説図C

内接円の半径を$r$とすると、$r$が入っている公式は
$S=\displaystyle \frac{1}{2}r(a+b+c)$式A
($S$は三角形の面積)
しかない。

三角形$\mathrm{ABC}$の面積$S$は、$\displaystyle \frac{1}{2} \times$底辺$\times$高さより、
$S=\displaystyle \frac{1}{2}\cdot 4\cdot 3$
なので、式Aは
$\displaystyle \frac{1}{2}r(4+5+3)=\frac{1}{2}\cdot 4\cdot 3$
となる。

これを解いて、
$r=1$
である。

解答$1$

別解

ちょっと手間はかかるけど、次のような方法でも解ける。

図D
直角三角形と三角比 解説図D

円$\mathrm{O}$と$\mathrm{CA}$の接点を$\mathrm{P}$,$\mathrm{AB}$との接点を$\mathrm{Q}$とする。
このとき、
$\angle \mathrm{ABC}=90^{\circ}$ $\mathrm{OD}$⊥$\mathrm{BC}$ $\mathrm{OQ}$⊥$\mathrm{AB}$ $\mathrm{OD}=\mathrm{OQ}$ なので、四角形$\mathrm{OQBD}$(図Dの青い四角形)は正方形である。

よって、円$\mathrm{O}$の半径を$r$とすると、
$\mathrm{BD}=\mathrm{BQ}=r$ だから、 $\mathrm{BC}=\mathrm{BD}+\mathrm{CD}$
より
$4=r+\mathrm{CD}$
$\mathrm{CD}=4-r$式B
$\mathrm{AB}=\mathrm{AQ}+\mathrm{BQ}$
より
$3=\mathrm{AQ}+r$
$\mathrm{AQ}=3-r$式C
とかける。

$\mathrm{D}$,$\mathrm{P}$,$\mathrm{Q}$は三角形と内接円との接点なので、
$\mathrm{CD}=\mathrm{CP}$ $\mathrm{AQ}=\mathrm{AP}$ だから、
$\mathrm{CA}=\mathrm{AP}+\mathrm{CP}$

$\mathrm{CA}=\mathrm{AQ}+\mathrm{CD}$
より
$\mathrm{AQ}+\mathrm{CD}=5$
と表せる。

これに式B,式Cを代入して、
$3-r+4-r=5$
$r=1$
である。

解答$r=1$

(2)

図E
直角三角形と三角比 解説図E

図Eの赤い直角三角形に三平方の定理を使って、
$\mathrm{AD}^{2}=\mathrm{AB}^{2}+\mathrm{BD}^{2}$

青い四角形は正方形なので、
$\mathrm{BD}=1$

よって、
$\mathrm{AD}^{2}=3^{2}+1^{2}$
$\mathrm{AD}^{2}$$=10$
$0 \lt \mathrm{AD}$なので、
$\mathrm{AD}=\sqrt{10}$
である。

解答$\sqrt{10}$

(3)

ちょっとややこしくなってきたので、これまでに分かったことを図Fに整理した。

図F
直角三角形と三角比 解説図F

点$\mathrm{Q}$は、円$\mathrm{O}$と$\mathrm{AB}$の接点である。

この状態で$\mathrm{DE}$を問われているから、方べきの定理だ、

図中の赤い線に方べきの定理を使って、
$\mathrm{AD}\cdot \mathrm{AE}=\mathrm{AQ}^{2}$
より、
$\sqrt{10}\mathrm{AE}=2^{2}$
$\displaystyle \mathrm{AE}=\frac{2^{2}}{\sqrt{10}}$
$\displaystyle \mathrm{AE}$$\displaystyle =\frac{2^{2}\sqrt{10}}{10}$
$\displaystyle \mathrm{AE}$$\displaystyle =\frac{2\sqrt{10}}{5}$

$\mathrm{DE}=\mathrm{AD}-\mathrm{AE}$なので、
$\displaystyle \mathrm{DE}=\sqrt{10}-\frac{2\sqrt{10}}{5}$
$\displaystyle \mathrm{DE}$$\displaystyle =\frac{3\sqrt{10}}{5}$
となる。

解答$\displaystyle \frac{3\sqrt{10}}{5}$

(4)

図G
直角三角形と三角比 解説図G

(3)で分かったことを書き込むと図Gができる。

図Gを見ると、△$\mathrm{ABD}$∽△$\mathrm{EFD}$で、相似比は
$\displaystyle \sqrt{10}:\frac{3}{5}\sqrt{10}=5:3$
であることが分かる。

よって、 $\mathrm{DB}:\mathrm{DF}=5:3$
$5\mathrm{DF}=3\cdot 1$
$\displaystyle \mathrm{DF}=\frac{3}{5}$
$\mathrm{AB}:\mathrm{EF}=5:3$
$5\mathrm{EF}=3\cdot 3$
$\displaystyle \mathrm{EF}=\frac{9}{5}$
である。

解答$\displaystyle \mathrm{DF}=\frac{3}{5}$,$\displaystyle \mathrm{EF}=\frac{9}{5}$

(5)

図H
直角三角形と三角比 解説図H

以上から図Hができる。

問われているのは、緑の角のタンジェントだ。
直角三角形$\mathrm{CEF}$(赤い三角形)が緑の角を含んでいるので、これを使おう。

$\tan\angle \mathrm{BCE}=\tan\angle \mathrm{FCE}$
$\displaystyle \tan\angle \mathrm{BCE}$$\displaystyle =\frac{\mathrm{E}\mathrm{F}}{\mathrm{C}\mathrm{F}}$
$\displaystyle \tan\angle \mathrm{BCE}$$\displaystyle =\frac{\frac{9}{5}}{3+\frac{3}{5}}$
$\displaystyle \tan\angle \mathrm{BCE}$$\displaystyle =\frac{1}{2}$
である。

解答$\displaystyle \frac{1}{2}$

アドバイス

ポイントは(5)の$\tan\angle \mathrm{BCE}$だ。
センター試験本番で精神的に一杯一杯のとき、問題の途中でこんな問いを出されると、簡単すぎて気づかない受験生が意外にいる。
問題を解いているうちに、頭が難しく考える方に行ってしまって、単純なことが見えなくなるのだろう。

このサイトのあちこちに書いてあるけど、センター試験にはひどく難しい問題は出ない。普通に受験勉強をしてきた生徒にとっては、基本問題ばかりだ。
もし解けなければ、それは問題が難しいのではなくて、何かを見落としたりミスをしたりしている可能性が高い。

問題を解いていてつまづいても、慌ててはいけない。
落ち着いて、上を見る。つまり、今まで自分がどう解いてきたかを確認する。
今回の問題であれば、$\tan\angle \mathrm{BCE}$を問われる直前に、$\mathrm{DF}$と$\mathrm{EF}$を求めた。
これを用いて図Hの緑の角のタンジェントを求めると考えれば、赤い三角形に気づきやすくなる。

上を見ても分からなければ、下を見る。つまり、この先何をしなければいけないかを考える。
それでも分からなければ、とりあえずその問題は置いておいて、他の問題に行こう。
他の問題を解いているうちに思考がリセットされて、見落としていたものが見えるようになることも多い。