大学入試センター試験 2020年(令和2年) 本試 数学ⅡB 第5問 解説
(1)
まず、確率変数の期待値(平均),分散,標準偏差の復習から。
復習
表のような確率分布に従う確率変数$X$があるとき、
$X$ | $x_{1}$ | $x_{2}$ | $\cdots$ | $x_{n}$ | 計 |
---|---|---|---|---|---|
$P(X)$ | $P(x_{1})$ | $P(x_{2})$ | $\cdots$ | $P(x_{n})$ | $1$ |
$X$の期待値(平均)$E(X)$は、
$E(X)=x_{1}\cdot P(x_{1})+x_{2}\cdot P(x_{2})+$
$\cdots+x_{n}\cdot P(x_{n})$
$X$の分散$V(X)$は、
$V(X)=\{x_{1}-E(X)\}^{2}\cdot P(x_{1})$
$+\{x_{2}-E(X)\}^{2}\cdot P(x_{2})$
$\cdots+\{x_{n}-E(X)\}^{2}\cdot P(x_{n})$
$V(X)$$=E(X^{2})-\{E(X)\}^{2}$
$X$の標準偏差$\sigma(X)$は、
$\sigma(X)=\sqrt{V(X)}$
である。
というわけで、表Aに$X$と$X^{2}$の確率分布表をつくった。
アドバイス
表中、$\displaystyle \frac{612}{720}$は、この先の計算で どうせ$0$をかけるので、時間節約のために約分しない。
また、$P(2)$は、$P(1)$や$P(3)$と分母をそろえておいた。最後まで約分して$\displaystyle \frac{1}{20}$にすると、あとで計算するときに通分しないといけない。
$X$ | $0$ | $1$ | $2$ | $3$ | 計 |
---|---|---|---|---|---|
$X^{2}$ | $0$ | $1$ | $4$ | $9$ | |
$P(X)$ | $\displaystyle \frac{612}{720}$ | $\displaystyle \frac{54}{720}$ $\displaystyle =\frac{3}{40}$ | $\displaystyle \frac{36}{720}$ $\displaystyle =\frac{2}{40}$ | $\displaystyle \frac{18}{720}$ $\displaystyle =\frac{1}{40}$ | $1$ |
復習より、$X$の平均$E(X)$は、
$E(X) = 0\displaystyle \cdot\frac{612}{720}+1\cdot\frac{3}{40}+2\cdot\frac{2}{40}+3\cdot\frac{1}{40}$
$=\displaystyle \frac{3+4+3}{40}$
$=\displaystyle \frac{1}{4}$
である。
解答ア:1, イ:4
また、$X^{2}$の平均$E(X^{2})$は、
$E(X^{2}) = 0\displaystyle \cdot\frac{612}{720}+1\cdot\frac{3}{40}+4\cdot\frac{2}{40}+9\cdot\frac{1}{40}$
$=\displaystyle \frac{3+8+9}{40}$
$=\displaystyle \frac{1}{2}$
となる。
解答ウ:1, エ:2
よって、復習より、分散は
$E(X^{2})-\displaystyle \{E(X)\}^{2}=\frac{1}{2}-\left(\frac{1}{4}\right)^{2}$
$=\displaystyle \frac{8}{16}-\frac{1}{16}$
$=\displaystyle \frac{7}{16}$
なので、$X$の標準偏差$\sigma(X)$は、
$\sigma(X)=\displaystyle \sqrt{\frac{7}{16}}$
$\displaystyle \sigma(X)$$\displaystyle =\frac{\sqrt{7}}{4}$
である。
解答オ:7, カ:4
(2)
図書館を利用した生徒の比率が$0.4$の母集団から、大きさ$600$の標本を取り出す。この標本に含まれる図書館利用生徒数が$Y$だ。
これは、$600$回の反復試行を行ったとき、確率$0.4$の事象が何回起こるか、と同じことである。
なので、二項分布だ。
ここで、二項分布の復習をしよう。
復習
確率$p$で事象$\mathrm{A}$が起こる試行を$n$回繰り返し、$\mathrm{A}$が起こった回数を$Y$とすると、$Y$の確率分布は二項分布$B(n,p)$である。
確率変数$Y$の
期待値(平均)$E(Y)=np$
分散$V(Y)=np(1-p)$
標準偏差$\sigma(Y)=\sqrt{np(1-p)}$
になる。
復習より、$Y$の平均$E(Y)$は、
$E(Y)=np$
$=600\cdot 0.4$
$=240$
となる。
解答キ:2, ク:4, ケ:0
標準偏差$\sigma(Y)$は、
$\sigma(Y)=\sqrt{np(1-p)}$
$=\sqrt{600\cdot 0.4\cdot 0.6}$
$=\sqrt{6\cdot 4\cdot 6}$
$=6\cdot 2$
$=12$
である。
解答コ:1, サ:2
このとき、$Y$が$215$以下である確率を求める。
アドバイス
$Y$は、$600$回の反復試行をしたときの、確率$0.4$の事象の起こる回数だった。
よって、
$Y=0$である確率$P(Y=0)$は
$P(Y=0)={}_{600}\mathrm{C}_{0}\cdot 0.4^{0}\cdot 0.6^{600}$
$Y=1$である確率$P(Y=1)$は
$P(Y=1)={}_{600}\mathrm{C}_{1}\cdot 0.4^{1}\cdot 0.6^{599}$
$\vdots$
$Y=215$である確率$P(Y=215)$は
$P(Y=215)={}_{600}\mathrm{C}_{215}\cdot 0.4^{215}\cdot 0.6^{385}$
を全部たせばいいんだけど、まぁ無理な計算だ。
こういうときの二項分布の確率は、正規分布で近似して求める。
ここでは、計算の方法だけを説明した。
二項分布を正規分布で近似する詳しい解説は、このページを見てほしい。
問題文中の
$Z=\displaystyle \frac{Y-240}{12}$式A
は標準化の式なので、$Z$の
平均値は$0$
標準偏差は$1$
になる。
二項分布と正規分布の関係を復習する。
復習
$n$が十分に大きい数であるとき、二項分布$B(n,p)$は、正規分布$N(np,np(1-p))$で近似できる
復習より、$Z$は近似的に正規分布$N(0,1)$に従う。
$N(0,1)$は、平均$0$,標準偏差$1$の正規分布なので、標準正規分布だ。
よって、$Z$は近似的に標準正規分布に従う。
これを使って$Y\leqq 215$である確率を求めるんだけど、
標準正規分布に従うのは、$Z$
確率を求めるのは、$Y$
なので、このままだと計算できない。
なので、$Y\leqq 215$を$Z$にそろえる。
式Aに$Y=215$を代入すると、
$Z=\displaystyle \frac{215-240}{12}$
$Z$$\doteqdot-2.08$
である。
なので、正規分布表を使って、標準正規分布で
$Z\leqq-2.08$
である確率を求めればよい。
この確率は、図Bの赤い部分の面積にあたる。
けれど、正規分布表には$y$軸より右の部分しか載っていない。
標準正規分布は$y$軸に関して対称なので、代わりに緑の部分の面積を求める。
正規分布表で$z_{0}=2.08$を探すと、$0.4812$とある。
でも、これは$0$から$2.08$の面積(図Bの青い部分の面積)だ。
グラフの$y$軸より右側の面積は$0.5$だから、
緑$=0.5-$青
より
緑$=0.5-0.4812$
緑$=0.0188$
緑$\doteqdot 0.02$
なので、求める赤い部分の面積も
$0.02$
である。
解答シ:0, ス:2
上の復習より、$Y$の
平均値は$np$
標準偏差は$\sqrt{np(1-p)}$
だった。
よって、
$p=0.4$のときの平均$E(Y_{0.4})$は$600\cdot 0.4$
$p=0.2$のときの平均$E(Y_{0.2})$は$600\cdot 0.2$
となるから、
$\displaystyle \frac{E(Y_{0.2})}{E(Y_{0.4})}=\frac{600\cdot 0.2}{600\cdot 0.4}$
$=\displaystyle \frac{2}{4}$
$=\displaystyle \frac{1}{2}$
である。
解答セ:2
また、
$p=0.4$のときの標準偏差$\sigma(Y_{0.4})$は$\sqrt{600\cdot 0.4(1-0.4)}$
$p=0.2$のときの標準偏差$\sigma(Y_{0.2})$は$\sqrt{600\cdot 0.2(1-0.2)}$
となるから、
$\displaystyle \frac{\sigma(Y_{0.2})}{\sigma(Y_{0.4})}=\frac{\sqrt{600\cdot 0.2(1-0.2)}}{\sqrt{600\cdot 0.4(1-0.4)}}$
途中式
$=\displaystyle \frac{\sqrt{2\cdot 8}}{\sqrt{4\cdot 6}}$
$=\displaystyle \frac{\sqrt{2}}{\sqrt{3}}$
である。
解答ソ:6
(3)
アドバイス
問題文では、大きさ$n$の標本の話に続いてタチツテが問われているので勘違いしそうだけど、ここで問われているのは標本平均や標本標準偏差ではない。
問題文の式は
$E(U_{1})=E(U_{2})=\cdots=E(U_{n})=m-$タチ
$\sigma(U_{1})=\sigma(U_{2})=\cdots=\sigma(U_{n})=$ツテ
なので、問われているのは$U_{1}$,$U_{2}$,$\ldots$,$U_{n}$それぞれの平均値と標準偏差である。
(1)で$X$の平均や標準偏差を答えたけど、それと同じだ。
以下では、$W_{1}$,$W_{2}$,$\ldots$,$W_{n}$とか$U_{1}$,$U_{2}$,$\ldots$,$U_{n}$とか書くのは面倒なので、まとめて$W_{k}$や$U_{k}$と書くことにする。
$W_{k}$は母集団から無作為に1人の生徒を選んだとき、その生徒の1回あたりの利用時間だ。
1回あたりの利用時間の母平均は$m$,母標準偏差は$30$なので、$W_{k}$も
平均値が$m$
標準偏差が$30$
である。
この$W_{k}$を使って、確率変数$U_{k}$を
$U_{k}=W_{k}-60$
と決める。
これは、確率変数の変換だ。
ということで、確率変数の変換の復習をする。
復習
確率変数$X$の
期待値(平均)を$E(X)$
分散を$V(X)$
標準偏差を$\sigma(X)$
とする。
$X$と定数$a$,$b$を用いて、確率変数$W$を
$W=aX+b$
と定める。
このとき、$W$の
期待値(平均)$E(W)=aE(X)+b$
分散$V(W)=a^{2}V(X)$
標準偏差$\sigma(W)=\sqrt{V(W)}$
$=|a|\sigma(X)$
である。
復習より、確率変数$U_{k}$の
平均値は$m-60$
標準偏差は$30$
である。
解答タ:6, チ:0, ツ:3, テ:0
したがって、
母集団に含まれる生徒の1回あたりの利用時間$-60$(分)を表す確率変数を$U$としたとき、$U$の
母平均は$m-60$
母標準偏差は$30$
である。
ここで、
$t=m-60$
として、$t$に対する信頼度$ 95\%$の信頼区間を求めよという。
つまり、$U$の母平均の信頼区間を推定せよということだ。
母平均の推定に関しては公式があって、
公式
母標準偏差を$\sigma$,標本平均を$\overline{X}$,標本の大きさを$n$とすると、母平均$\mu$の信頼区間を求める式は、
$\displaystyle \overline{X}-z\cdot\frac{\sigma}{\sqrt{n}}\leqq\mu\leqq\overline{X}+z\cdot\frac{\sigma}{\sqrt{n}}$
ただし、信頼度が$c\%$のとき
$z$は、右図を標準正規分布の確率分布図として、図中の$z_{0}$の値。
特に
信頼度$ 95\%$のとき、$z=1.96$
信頼度$ 99\%$のとき、$z=2.58$
だった。
これじゃ原理がゼンゼン分からないけど、原理通り解くと時間がかかるから、センター試験本番では機械的に公式を使おう。
原理に関してはこのページを参照してほしい。
問題文より、
標本の大きさは$100$
標本平均は$50$
また、ツテより、$U$の
母標準偏差は$30$
なので、公式より、$t$の信頼度$ 95\%$の信頼区間は、
$50-1.96\displaystyle \cdot\frac{30}{\sqrt{100}}\leqq t\leqq 50+1.96\cdot\frac{30}{\sqrt{100}}$
とかける。
これを計算すると、
$50-1.96\cdot 3\leqq t\leqq 50+1.96\cdot 3$
$44.12\leqq t\leqq 55.88$
となる。
解答は小数第一位までで答えるので、小数第二位で四捨五入して、答えは
$44.1\leqq t\leqq 55.9$
である。
解答ト:4, ナ:4, ニ:1, ヌ:5, ネ:5, ノ:9