大学入学共通テスト 2021年(令和3年) 本試 数学ⅠA 第4問 解説

(1)

以下の解説中では、
時計回りに移動させることを「進む」と書き、移動量を正の値で 反時計回りに移動することを「戻る」と書き、移動量を負の値で 表すことにする。


直感的に、2回進んで3回戻れば、
$5\times 2-3\times 3=1$
より、$\mathrm{P}_{0}$から$\mathrm{P}_{1}$に移動すると思いつく。

解答ア:2, イ:3

共通テスト本番ではこれでいいんだけど、「直感的に思いつく」なんて数学じゃないし、思いつかないときもあるから、もうちょっと考えておこう。


5回移動するので、石は
最も進んだときは
$5\times 5=25$
最も戻ったときは
$-3\times 5=-15$
移動する。

この範囲で$\mathrm{P}_{0}$から$\mathrm{P}_{1}$に移動する方法は、図Aのように3パターンある。
以下の図では、$\mathrm{P}_{0}$を緑の点で表すことにする。

図A
大学入学共通テスト2021年本試 数学ⅠA第4問 解説図A

ここからは、
解法1 連立方程式を使った方法 解法2 頭を使わずに手を使う方法おすすめ の、2つの解法を説明する。

解法1

進む回数を$x$,戻る回数を$y$,石の移動量を$n$とすると、連立方程式

$x+y=5$式A
$5x-3y=n$式B

ができる。

式Aより
$y=5-x$
これを式Bに代入すると
$5x-3(5-x)=n$
より
$8x=n+15$
とかける。


この式に図Aの3つのパターンを当てはめると、
パターンA
$n=16$なので、
$8x=16+15$
$8x$$=31$
パターンB
$n=1$なので、
$8x=1+15$
$8x$$=16$
$x=2$
パターンC
$n=-14$なので、
$8x=-14+15$
$8x$$=1$
となる。

パターンA,パターンCは、$x$が整数にならないので不適。
答えは、パターンBの
$x=2$
である。

また、このときの$y$は、式Aに$x=2$を代入して、
$y=3$
となる。

以上より、5回の移動で$\mathrm{P}_{0}$から$\mathrm{P}_{1}$に動くのは、
偶数が2回、奇数が3回 出た場合だけである。

解答ア:2, イ:3

アドバイス

以上、真っ正直に解いてみた。

けれど、問題文の先を読むと
「不定方程式$5x-3y=1$の整数解になっている」
とある。

なので、を解く前にこれを読んでいれば、図AのパターンBだけ考えればよいことが分かる。

解法2

この問題は頭を使うよりも手を使った方が早く解ける。つまり、全部書く。

5回全て奇数の目が出た場合、5回戻るので、移動量は
$5\times(-3)=-15$
だ。

5回中1回偶数のときは、5回全て奇数のときと比べて、
戻るのが1回減るので、
$-3$が1回分なくなる
進むのが1回増えるので、
$+5$が1回分増える
から、移動量は$8$増える。
なので、5回全て奇数のときの移動量に$8$をたして、
$-15+8=-7$
移動する。

同様に、5回のうち2回偶数のときには、$-7$に$8$をたして、
$-7+8=1$
移動する。

こうして、全て偶数の場合の
$5\times 5=25$
になるまで$8$をたし続けると、表Bができる。

表B
偶数の回数$0$ $1$ $2$ $3$ $4$ $5$
移動量$-15$ $-7$$1$ $9$ $17$ $25$

表Bで、図Aの3つのパターンの
$n=16,1,-14$
を探すと、当てはまるのは赤い部分のひとつだけ。

以上より、5回の移動で$\mathrm{P}_{0}$から$\mathrm{P}_{1}$に動くのは、
偶数が2回、奇数が3回 出た場合だけである。

解答ア:2, イ:3

より、
$+5$を2回 $-3$を3回 の移動で$1$動くので、
$5\times 2-3\times 3=1$式C
とかける。

なので、は、1次不定方程式
$5x-3y=1$
の整数解のひとつである。

(2)

不定方程式を解くときは、まず解を一組見つける。
けれど、この問題では、すでに(1)で
$5x-3y=1$
の解のひとつが分かっているので、これを使おう。

式Cより
$5\times 2-3\times 3=1$式C
だけど、この両辺を$8$倍すると
$5\times 2\cdot 8-3\times 3\cdot 8= 8$式C'
となるので、①の解のひとつは

$x=2\cdot 8$
$y=3\cdot 8$

だ。

あとはいつも通りの作業をする。

①から式C'を辺々引くと、

$5x$$-3y$$=$$8$
$-)$$5\times 2\cdot 8$$-3\times3\cdot 8$$=$$8$
$5(x-2\cdot 8)$$-3(y-3\cdot 8)$$=$$0$

となるから、
$5(x-2\cdot 8)=3(y-3\cdot 8)$式D
とかける。

ここで、$5$と$3$は互いに素なので、式Dが成り立つためには、$k$を整数として

$x-2\cdot 8=3k$
$y-3\cdot 8=5k$

でなければならない。

以上より、①の解は、

$x=2\cdot 8+3k$($k$は整数)式E
$y=3\cdot 8+5k$

と表せる。

解答ウ:3, エ:5


この解のうち、
$0\leqq y \lt 5$
を満たすものを探す。

まず、この$y$の範囲を$k$の範囲に変えよう。

$y$の範囲に式Eを代入すると、
$0\leqq 3\cdot 8+5k \lt 5$
より
$-24\leqq 5k \lt -19$
$-\displaystyle \frac{24}{5}\leqq k \lt -\frac{19}{5}$
とかける。

いま、$k$は整数なので、これを満たす$k$は
$k=-4$
のひとつだけ。

これを式Eに代入して、求める解は
$x=2\cdot 8+3\cdot(-4)$
$x$$=4$
$y=3\cdot 8+5\cdot(-4)$
$y$$=4$
である。

解答オ:4, カ:4

このとき、さいころを投げる回数は
$4+4=8$
回になる。

解答キ:8

(3)

はじめに、問題文の
(*) 石を反時計回りまたは時計回りに$15$個先の点に移動させると元の点に戻る。 について考えておこう。

偶数が$3$回以上出た場合、そのうちの$3$回は出発点に戻るのに使われているから、
偶数$x+3p$回の移動は、偶数$x$回の移動と同じ だといえる。性質A

同様に、奇数が$5$回以上出た場合、そのうちの$5$回は出発点に戻るのに使われているから、
奇数$y+5q$回の移動は、奇数$y$回の移動と同じ だといえる。性質B

(ただし、$p$,$q$は整数とする)

性質A,Bが分かったところで問題を解くんだけれど、ここでは
解法1 (2)の結果を使った方法おすすめ 解法2 頭を使わずに手を使う方法 の、2つの解法を説明する。
その他、1次不定方程式や連立方程式を使った方法も考えられるけど、遠回りなので省略する。

解法1

(2)より、
偶数が$4$回、奇数が$4$回式F の移動で$\mathrm{P_{8}}$に到達できる。

性質Aより、
偶数$4$回の移動は、偶数$4-3$回の移動と同じ なので、式Fの移動は
偶数が$1$回、奇数が$4$回 の移動と同じだ。

よって、さいころの目が
偶数が$1$回、奇数が$4$回、合計$5$回 のとき、$8$回より少ない回数で$\mathrm{P}_{8}$に移動できる。

解答ク:1, ケ:4, コ:5

解法2

移動回数が$1$回~$7$回の場合を、(1)の解法2の方法で全部書くと、表Cができる。

表C
偶数の回数
$0$$1$$2$$3$$4$$5$$6$$7$
移動回数$1$$-3$$5$
$2$$-6$$2$$10$
$3$$-9$$-1$$7$$15$
$4$$-12$$-4$$4$$12$$20$
$5$$-15$$-7$$1$$9$$17$$25$
$6$$-18$$-10$$-2$$6$$14$$22$$30$
$7$$-21$$-13$$-5$$3$$11$$19$$27$$35$

かなりの作業量に見えるかも知れないけれど、$8$をたし続けるだけなので、表をつくるのに1分もかからない。

$15$以上と$-15$以下はムダに1周以上回っているので、最小移動回数を考えるときは無視していい。
表Cの考えなくていい数を消すと、表Dになる。

表D
偶数の回数
$0$$1$$2$$3$$4$$5$$6$$7$
移動回数$1$$-3$$5$
$2$$-6$$2$$10$
$3$$-9$$-1$$7$
$4$$-12$$-4$$4$$12$
$5$$-7$$1$$9$
$6$$-10$$-2$$6$$14$
$7$$-13$$-5$$3$$11$

ここまできたら、ついでに表中の負の数に$15$をたして、点の番号にしてしまおう。
その方が見やすいし。

表E
偶数の回数
$0$$1$$2$$3$$4$
移動回数$1$$12$$5$
$2$$9$$2$$10$
$3$$6$$14$$7$
$4$$3$$11$$4$$12$
$5$$8$$1$$9$
$6$$5$$13$$6$$14$
$7$$2$$10$$3$$11$

いま考えているのは、$\mathrm{P_{8}}$への移動だった。
なので、表Eで$8$を探すと、当てはまるのは赤い部分だ。

このとき、表Eより、
移動回数が$5$ 偶数の回数が$1$ なので、
奇数の回数は$4$ である。

解答ク:1, ケ:4, コ:5

(4)

図F
大学入学共通テスト2021年本試 数学ⅠA第4問 解説図F

最後は、選択肢の
$\mathrm{P}_{10}$~$\mathrm{P}_{14}$(図F中の赤い点)
のうち、最小回数が最も大きいものを探す問題だ。

(4)では、次の3種類の解法を説明する。
解法1 1次不定方程式を使った方法 解法2 頭を使わずに手を使う方法おすすめ 解法3 推論で解く方法

解法1

まず、最初に作った
$5x-3y=n$式B
の解を一組見つける。

式Cの両辺を$n$倍すると、
$5\times 2n-3\times 3n=n$
なので、式Bの解のひとつは

$x=2n$式G
$y=3n$

である。


式Gを使って$\mathrm{P}_{10}$~$\mathrm{P}_{14}$の最小回数を求めるんだけど、その前にもうちょっと整理しておこう。

例えば$\mathrm{P_{7}}$に移動する場合を考えると、
式Gに$n=7$を代入して、
偶数が$14$回,奇数が$21$回 出ればよいことが分かる。

この回数を性質A,Bを使って減らすと、
偶数の回数の$14$から、$14$以下で最大の$3$の倍数である$12$を引いて、
$14-12=2$
より、
偶数$2$回
奇数の回数の$21$から、$21$以下で最大の$5$の倍数である$20$を引いて、
$21-20=1$
より、
偶数$1$回
で移動できることが分かる。

この作業は、考えてみれば
偶数の回数を$3$で割った余り 奇数の回数を$5$で割った余り を求めているのと同じだ。

以上より、式Gで$x$,$y$を求めて、
$x$を$3$で割った余りが、偶数の回数 $y$を$5$で割った余りが、奇数の回数 であることが分かる。性質C

性質Cを使って、$\mathrm{P}_{10}$~$\mathrm{P}_{14}$の最小回数を求めよう。


まず、$x$,$y$から。
$\mathrm{P}_{10}$~$\mathrm{P}_{14}$への移動$n$は

$\mathrm{P}_{10}$$\mathrm{P}_{11}$$\mathrm{P}_{12}$$\mathrm{P}_{13}$$\mathrm{P}_{14}$
$n$$10$$11$$12$$13$$14$

なので、これを式Gに代入すると、$x$,$y$は表Gのようになる。

表G
$\mathrm{P}_{10}$$\mathrm{P}_{11}$$\mathrm{P}_{12}$$\mathrm{P}_{13}$$\mathrm{P}_{14}$
$x$$20$$22$$24$$26$$28$
$y$$30$$33$$36$$39$$42$

性質Cより、表Gの $x$を$3$で割った余り(偶数の回数) $y$を$5$で割った余り(奇数の回数) を求めて、偶数と奇数の和、つまり最小回数を計算すると、表Hができる。

表H
$\mathrm{P}_{10}$$\mathrm{P}_{11}$$\mathrm{P}_{12}$$\mathrm{P}_{13}$$\mathrm{P}_{14}$
偶数の回数$2$$1$$0$$2$$1$
奇数の回数$0$$3$$1$$4$$2$
最小回数$2$$4$$1$$6$$3$

表Hより、最小回数が最も大きいのは
$\mathrm{P}_{13}$
で、そのときの移動回数は、
$6$回
である。

解答サ:3, シ:6

解法1の別解

あんまりお勧めじゃないけれど、$\mathrm{P}_{10}$~$\mathrm{P}_{14}$の最小回数を求めずに解くこともできる。


整数を
$3$で割った余りは$2$以下 $5$で割った余りは$4$以下 だ。

このことと 性質Cより、最小回数の
偶数の回数は$2$以下 奇数の回数は$4$以下 なので、すべての点の最小回数は
$6$以下 であることが分かる。

よって、いま求めている点の最小回数
$\leqq 6$
となる。

また、(3)で求めたように、$\mathrm{P}_{8}$の最小回数が$5$だった。
いま問われている点の最小回数は$\mathrm{P}_{8}$より大きいはずだから、
$5 \lt $
である。

以上より、
$5 \lt $$\leqq 6$
なので、
$=6$
であることが分かる。

解答シ:6


ということで、最小回数が$6$になる点を探す。

最小回数が$6$になるのは、性質Cより、式Gの

$x$を$3$で割った余りが$2$
$y$を$5$で割った余りが$4$

のとき。

これに式Gを代入すると、

$2n$を$3$で割った余りが$2$
$3n$を$5$で割った余りが$4$

とかける。
これを満たす$n$を探す。


$2n$を$3$で割った余りが$2$
より、$p$を整数として、
$2n=3p+2$式H
両辺を$3$倍して、
$6n=9p+6$式H'
とかける。

$3n$を$5$で割った余りが$4$
より、$q$を整数として、
$3n=5q+4$
両辺を$2$倍して、
$6n=10q+8$式I
とかける。

式H'$=$式Iとすると、
$9p+6=10q+8$
より、1次不定方程式
$9p-10q=2$式J
ができる。


$p=q=1$のとき、
$9\cdot 1-10\cdot 1=-1$
だけど、この両辺を$-2$倍すると、
$9\cdot(-2)-10\cdot(-2)=2$
なので、

$p=-2$式K
$q=-2$

は式Jの解のひとつだ。

この式Kを式Hに代入すると、
$2n=3\cdot(-2)+2$
$2n$$=-4$
$n=-2$
となるので、求める点は、$\mathrm{P_{0}}$から
$-2$ 移動した点、つまり
$\mathrm{P_{13}}$ である。

解答サ:3

解法2

(4)は、全部書く方式の方が恐らく圧倒的に早い。


表E
偶数の回数
$0$$1$$2$$3$$4$
移動回数$1$$12$$5$
$2$$9$$2$$10$
$3$$6$$14$$7$
$4$$3$$11$$4$$12$
$5$$8$$1$$9$
$6$$5$$13$$6$$14$
$7$$2$$10$$3$$11$

(3)の表Eをもう一回載せておいた。
表Eにある同じ数字のうち一番上が最小回数なので、印をつける。
例えば、$12$は1行目(緑の部分)と4行目(青い部分)にあるけど、上にある緑の方が$\mathrm{P}_{12}$の最小回数なので、緑の方に印をつける。
すると、表Iができる。

表I
偶数の回数
$0$$1$$2$$3$$4$
移動回数$1$$12$$5$
$2$$9$$2$$10$
$3$$6$$14$$7$
$4$$3$$11$$4$$12$
$5$$8$$1$$9$
$6$$5$$13$$6$$14$
$7$$2$$10$$3$$11$

印をつけた(表Iでは赤くした)数は$14$あるので、$\mathrm{P_{1}}$~$\mathrm{P_{14}}$がすべて含まれている。
このうち、一番下にあるのは$13$だ。

よって、最小回数が最も大きいのは
$\mathrm{P}_{13}$
で、そのときの移動回数は、
$6$回
である。

解答サ:3, シ:6

解法3

最後に、あんまり数学的じゃない方法を載せておく。推理小説が好きな人とかには合った考え方かも知れない。
だけど、この方法が良いかどうかは別問題だ。
なので、興味がなければ読まなくても問題ない。


図J
大学入学共通テスト2021年本試 数学ⅠA第4問 解説図J

図Fの5個の点のうち、$\mathrm{P}_{10}$と$\mathrm{P}_{12}$については、図Jのように
偶数$2$回で$\mathrm{P}_{10}$に 奇数$1$回で$\mathrm{P}_{12}$に 到達できる。

図K
大学入学共通テスト2021年本試 数学ⅠA第4問 解説図K

また、偶数$1$回と奇数$1$回で
$5-3=2$
移動するから、$2$回で$2$進める。
なので、
$\mathrm{P}_{12}$に移動した後、$2$回で$2$進んだ と考えると、$\mathrm{P}_{14}$には$3$回の移動で到達できる。(図K)(☆)

図L
大学入学共通テスト2021年本試 数学ⅠA第4問 解説図L

$3$回で$\mathrm{P}_{0}$→$\mathrm{P}_{14}$に移動できるので、
$3$回で$1$戻れる。(☆☆)
なので、
$\mathrm{P}_{12}$に移動した後、$3$回で$1$戻った と考えると、$\mathrm{P}_{11}$には$4$回の移動で到達できる。(図L)

以上より、選択肢のうち$\mathrm{P}_{13}$以外は、$4$回以下の移動で到達できる。

(3)で$\mathrm{P}_{8}$の最小回数は$5$回と分かっているから、$5$回より少ないものは答えじゃない。
なので、$\mathrm{P}_{13}$以外は答えじゃない。

以上より、消去法で、最小回数が最も大きいのは
$\mathrm{P}_{13}$
である。

解答サ:3


$\mathrm{P}_{13}$の最小回数は、
$\mathrm{P}_{8}$の最小回数の$5$回より多くなるはず (☆)(☆☆)より、$6$回で$\mathrm{P}_{13}$に移動できるので、多くても$6$ だ。

つまり、$\mathrm{P}_{13}$の最小回数は、$5$より大きく$6$以下の整数なので、
$6$回
であることが分かる。

解答シ:6