大学入学共通テスト 2022年(令和4年) 追試 数学ⅡB 第3問 解説
(1)
最初に二項分布の復習をしておく。
復習
確率$p$で事象$\mathrm{A}$が起こる試行を$n$回繰り返し、$\mathrm{A}$が起こった回数を$X$とすると、$X$の確率分布は二項分布$B(n,p)$である。
確率変数$X$の
平均(期待値)は、$np$
分散は、$np(1-p)$
標準偏差は、$\sqrt{np(1-p)}$
になる。
今回の問題では、
試行回数は$72$
2個のさいころを投げて 両方とも1の目が出る確率は
$\displaystyle \frac{1}{6}\times\frac{1}{6}=\frac{1}{36}$
なので、復習より、$X$は 二項分布
$\displaystyle B\left(72,\ \frac{1}{36}\right)$
に従う。
解答ア:7, イ:2, ウ:1, エ:3, オ:6
このとき、$X=r$である確率$P(X=r)$は、反復試行の確率なので
$\displaystyle P(X=r)={}_{72}\mathrm{C}_{r}\left(\frac{1}{36}\right)^{r}\left(1-\frac{1}{36}\right)^{72-r}$
とかける。
$72=k$,$\displaystyle \frac{1}{36}=p$とおくと、この式は
$P(X=r)={}_{k}\mathrm{C}_{r}p^{r}(1-p)^{k-r}$①
と表せる。
解答カ:2
また、復習より、$X$の
平均(期待値)$E(X)$は
$E(X)=72\displaystyle \cdot\frac{1}{36}$
$\phantom{ E(X) } =2$
解答キ:2
標準偏差$\sigma(X)$は
$\displaystyle \sigma(X)=\sqrt{72\cdot\frac{1}{36}\left(1-\frac{1}{36}\right)}$
途中式
$\phantom{ \sigma(X) } \displaystyle =\sqrt{2\cdot\frac{35}{36}}$
$\phantom{ \sigma(X) } \displaystyle =\sqrt{\frac{35}{18}}$
$\phantom{ \sigma(X) } \displaystyle =\frac{\sqrt{35}}{3\sqrt{2}}$
解答ク:7, ケ:0, コ:6
である。
(2)
この試行を行った生徒は$21$人。
問題文中の表より、2回とも1の目が出た回数が
$0$回だった生徒は$2$人なので、確率は
$\displaystyle \frac{2}{21}$
$1$回だった生徒は$7$人なので、確率は
$\displaystyle \frac{7}{21}=\frac{1}{3}$
$2$回だった生徒も$7$人なので、確率は
$\displaystyle \frac{1}{3}$
$3$回だった生徒は$3$人なので、確率は
$\displaystyle \frac{3}{21}=\frac{1}{7}$
$4$回だった生徒は$2$人なので、確率は
$\displaystyle \frac{2}{21}$
$0$~$4$回の確率の和は、すべての確率の和なので
$1$
となる。
この計算結果から、この試行における 2回とも1の目が出た回数を確率変数$Y$とすると、表Aの確率分布表ができる。
$Y$ | $0$ | $1$ | $2$ | $3$ | $4$ | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|
$P$ | $\displaystyle \frac{2}{21}$ | $\displaystyle \frac{1}{3}$ | $\displaystyle \frac{1}{3}$ | $\displaystyle \frac{1}{7}$ | $\displaystyle \frac{2}{21}$ | $1$ |
解答サ:1, シ:7, ス:1
また、$Y$の平均$E(Y)$は、問題文中の度数分布表より
$E(Y)=\displaystyle \frac{0\times 2+1\times 7+2\times 7+3\times 3+4\times 2}{21}$
$\phantom{ E(Y)\displaystyle } \displaystyle =\frac{38}{21}$
である。
解答セ:3, ソ:8, タ:2, チ:1
別解
表Aの確率分布表から計算すると、$E(Y)$は次のようになる。
$E(Y)=0\displaystyle \times\frac{2}{21}+1\times\frac{1}{3}+2\times\frac{1}{3}$
$\hspace{150px} \displaystyle +3\times\frac{1}{7}+4\times\frac{2}{21}$
$\phantom{ E(Y) } \displaystyle =\frac{38}{21}$
解答セ:3, ソ:8, タ:2, チ:1
(3)
$P(Z=r)=\displaystyle \alpha\cdot\frac{2^{r}}{r!}$ $(r=0$,$1$,$2$,$3$,$4)$
なので、それぞれの確率は
$r=0$のとき
$P(Z=0)=\displaystyle \alpha\cdot\frac{2^{0}}{0!}$
$\phantom{ P(Z=0)\displaystyle } \displaystyle =\alpha\cdot\frac{1}{1}$
$\phantom{ P(Z=0) } =\alpha$
$r=1$のとき
$P(Z=1)=\displaystyle \alpha\cdot\frac{2^{1}}{1!}$
$\phantom{ P(Z=1)\displaystyle } \displaystyle =\alpha\cdot\frac{2}{1}$
$\phantom{ P(Z=1) } =2\alpha$
$r=2$のとき
$P(Z=2)=\displaystyle \alpha\cdot\frac{2^{2}}{2!}$
$\phantom{ P(Z=2)\displaystyle } \displaystyle =\alpha\cdot\frac{2^{2}}{2\cdot 1}$
$\phantom{ P(Z=2) } =2\alpha$
$r=3$のとき
$P(Z=3)=\displaystyle \alpha\cdot\frac{2^{3}}{3!}$
$\phantom{ P(Z=3)\displaystyle } \displaystyle =\alpha\cdot\frac{2^{3}}{3\cdot 2\cdot 1}$
$\phantom{ P(Z=3)\displaystyle } \displaystyle =\frac{4}{3}\alpha$
$r=4$のとき
$P(Z=4)=\displaystyle \alpha\cdot\frac{2^{4}}{4!}$
$\phantom{ P(Z=4)\displaystyle } \displaystyle =\alpha\cdot\frac{2^{4}}{4\cdot 3\cdot 2\cdot 1}$
$\phantom{ P(Z=4)\displaystyle } \displaystyle =\frac{2}{3}\alpha$
となる。
このすべての確率の和は$1$なので、
$\displaystyle \alpha+2\alpha+2\alpha+\frac{4}{3}\alpha+\frac{2}{3}\alpha=1$
より
途中式
$3\alpha+6\alpha+6\alpha+4\alpha+2\alpha=3$
$21\alpha=3$
でなければならない。
解答ツ:1, テ:7
以上より、それぞれの確率に$\displaystyle \alpha=\frac{1}{7}$を代入して 確率変数$Z$の確率分布表を書くと、次のようになる。
$Z$ | $0$ | $1$ | $2$ | $3$ | $4$ | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|
$P$ | $\displaystyle \frac{1}{7}$ | $\displaystyle \frac{2}{7}$ | $\displaystyle \frac{2}{7}$ | $\displaystyle \frac{4}{21}$ | $\displaystyle \frac{2}{21}$ | $1$ |
このとき
$E(Z)=E(Y)$
$P(Z=r)$,$P(Y=r)$ともに$r=1$,$2$で最大で、
$P(Z=1)=P(Z=2)$
$P(Y=1)=P(Y=2)$
なので、$Z$と$Y$の確率分布は近似していると考え、以下では確率変数$Y$の代わりに確率変数$Z$を用いる。
(4)
まず、標本平均の期待値(平均)と標準偏差の復習から。
復習
母平均$E(Z)$,母標準偏差$\sigma(Z)$の母集団から大きさ$n$の標本を無作為に取り出すとき、標本平均$\overline{W}$の
期待値(平均)$E(\overline{W})=E(Z)$
分散$V(\displaystyle \overline{W})=\frac{\sigma(Z)^{2}}{n}$
標準偏差$\displaystyle \sigma(\overline{W})=\frac{\sigma(Z)}{\sqrt{n}}$
である。
いま、
母平均は
$E(Z)=\displaystyle \frac{38}{21}$
母標準偏差は
$\sigma(Z)$
標本の大きさは
$n$
だ。
なので、復習より、$\overline{W}$の
期待値(平均)$m$は
$m=\displaystyle \frac{38}{21}$
解答ト:3, ナ:8, ニ:2, ヌ:1
標準偏差$s$は
$s=\displaystyle \frac{\sigma(Z)}{\sqrt{n}}$式A
解答ネ:2
となる。
さらに、標本平均の分布について復習する。
復習
母平均$m$,母標準偏差$\sigma(Z)$の母集団から大きさ$n$の標本を取り出す。
このとき、標本平均は
母集団が正規分布に従うときには $n$の値にかかわらす完全に、
母集団がその他の分布のときには $n$が大きければ近似的に、
正規分布
$\displaystyle N\left(m,\ \frac{\sigma(Z)^{2}}{n}\right)$
に従う。
式Aより
$\displaystyle \frac{\sigma(Z)}{\sqrt{n}}=s$
なので、$n$が十分に大きいとき、$\overline{W}$は近似的に正規分布
$N\left(m,\ s^{2}\right)$
に従う。
また、式Aより、分散$s^{2}$は
$s^{2}=\displaystyle \frac{\sigma(Z)^{2}}{n}$
だけど、$\displaystyle \sigma(Z)=\frac{\sqrt{614}}{21}$で一定なので、$n$が大きくなると$s^{2}$は小さくなる。
解答ノ:0
ここで、正規分布の度数分布図の復習をしておく。
復習
標準偏差はデータの散らばりを表している。
なので、正規分布の場合、標準偏差が小さいほど分布は平均近くに集中する。
例として、平均が$0$で、標準偏差$s$がそれぞれ$\displaystyle \frac{1}{2}$,$1$,$\displaystyle \frac{3}{2}$の正規分布曲線を載せた。
図Cは度数分布曲線なので、曲線と横軸の間の面積が確率にあたる。
よって、
標準偏差が小さいほど、平均付近の確率は大きくなり、平均から離れた値の確率は小さくなる
ことになる。
これだけだとイメージしにくいだろうから、図を載せてみる。
いま
$m=\displaystyle \frac{38}{21}$
なので、$P(\overline{W}\geqq 2)$は、図Dの赤い部分の面積。
分散の正の平方根が標準偏差なので、分散が小さいほど標準偏差も小さい。
図Dのように、標準偏差が小さいほど、赤い部分の面積も小さい。
以上をまとめると、
$n$が大きくなる
↓
$s^{2}$(分散)が小さくなる
↓
$s$(標準偏差)が小さくなる
↓
図Dの赤い部分の面積が小さくなる
↓
$P(\overline{W}\geqq 2)$が小さくなる
ことが分かる。
解答ハ:0
次に、
$N(m,\ s^{2})$に従う確率変数$\overline{W}$
を
$N(0,\ 1)$に従う確率変数$U$
に変換する。
平均を$0$,標準偏差を$1$に変換するので、標準化だ。
復習
もとの確率変数を$A$とし、
$A$の平均を$m$
$A$の標準偏差を$\sigma$
変換後の標準化された確率変数を$B$
とすると、変換式は
$B=\displaystyle \frac{A-m}{\sigma}$
である。
いま、$\overline{W}$の
平均は$m$
標準偏差は$s$
なので、復習より、変換式は
$U=\displaystyle \frac{\overline{W}-m}{s}$式B
となる。
解答ヒ:4
これを使って、$n=100$のときの
$P(\overline{W}\geqq 2)$
を求める。
$n=100$のとき、$\overline{W}$の標準偏差$s$は、式Aに
$\displaystyle \sigma(Z)=\frac{\sqrt{614}}{21}$
$n=100$
を代入して、
$s=\displaystyle \frac{\frac{\sqrt{614}}{21}}{\sqrt{100}}$
$\phantom{ s\displaystyle } \displaystyle =\frac{\sqrt{614}}{210}$
トナニヌより、$\overline{W}$の平均$m$は
$m=\displaystyle \frac{38}{21}$
よって、$n=100$のとき、$\overline{W}$は 正規分布
$\displaystyle N\left(\frac{38}{21},\ \left(\frac{\sqrt{614}}{210}\right)^{2}\right)$
に従うから、求める確率
$P(\overline{W}\geqq 2)$
は、図Eの赤い部分の面積にあたる。
赤い部分の面積は正規分布表を使って求めるんだけど、正規分布表に載っているのは
平均が$0$
標準偏差が$1$
の標準正規分布$N(0,\ 1)$。
図Eの曲線は
平均が$\displaystyle \frac{38}{21}$
標準偏差が$\displaystyle \frac{\sqrt{614}}{210}$
の正規分布なので、このままでは正規分布表は使えない。
なので、式Bを使って図Eを標準化して、
$N(0,\ 1)$
にそろえよう。
式Bを使って 図E中の$2$を標準化すると
$\displaystyle \frac{2-m}{s}$
とかける。
これに$m$,$s$の値を代入して、
$\displaystyle \frac{2-m}{s}=\frac{2-\frac{38}{21}}{\frac{\sqrt{614}}{210}}$
途中式
$\displaystyle \phantom{ \frac{2-m}{s} } =\frac{\frac{4}{21}}{\frac{\sqrt{614}}{210}}$
$\displaystyle \phantom{ \frac{2-m}{s} } =\frac{4}{21}\cdot\frac{210}{\sqrt{614}}$
$\displaystyle \phantom{ \frac{2-m}{s} } =40\cdot\frac{1}{\sqrt{614}}$
問題文より $\displaystyle \frac{1}{\sqrt{614}}=0.040$なので、
$\displaystyle \frac{2-m}{s}=40\times 0.040$
標準化すると、平均は$0$,標準偏差は$1$になる。
よって、図E中の
$\displaystyle \frac{38}{21}$を標準化すると$0$
$\displaystyle \frac{\sqrt{614}}{210}$を標準化すると$1$
になる。
以上より、図Eを標準化すると図Fができる。
図Eを標準化したものが図Fなので、ふたつの図の赤い部分の面積は等しい。
なので、
$P(\overline{W}\geqq 2)$
を求める代わりに
$P(U\geqq 1.60)$
を求める。
正規分布表で$1.60$を探すと、
$0.4452$
とあるけど、これは図Fの緑の面積。
赤$+$緑$=0.5$
なので、求める赤い面積$P(U\geqq 1.60)$は、
$P(U\geqq 1.60)=0.5-0.4452$
$\phantom{ P(U\geqq 1.60) } =0.0548$
$\phantom{ P(U\geqq 1.60) } \doteqdot 0.055$
となる。
以上より、
$P(\overline{W}\geqq 2)= 0.055$式C
である。
解答フ:0, ヘ:5, ホ:5
いま
$E(X)=2$
なので、式Cより
$P(\overline{W}\geqq E(X))= 0.055$式D
といえる。
また、$E(\overline{W})$は$\overline{W}$の平均なので、
$P(\overline{W}\geqq E(\overline{W}))=0.5$式E
である。
詳しく
$P(\overline{W}\geqq E(\overline{W}))$ は、正規分布で平均以上になる確率なので、
$\displaystyle \frac{1}{2}=0.5$
である。
確率分布図でいうと、図Eの斜線部分の面積にあたる。
$E(X)$と$E(\overline{W})$を等しいとみなせるのなら
式D$\doteqdot$式E
となるはずだけど、2つの値は大きく違う。
よって、$E(X)$と$E(\overline{W})$を等しいとはみなせない。