大学入学共通テスト 2024年(令和6年) 本試 数学ⅡB 第3問 解説
(1)
確率変数$X$の平均(期待値)$m$は、問題文中の表1から
$$
\begin{align}
m&=0\cdot(1-p)+1\cdot p\\
&=p
\end{align}
$$
となる。
解答ア:0
ここで、標本平均について復習する。
復習
母平均$m$,母分散$\sigma^{2}$の母集団から大きさ$n$の標本を取り出す。
このとき、標本平均は、
母集団が正規分布に従うときには $n$の値にかかわらず完全に
母集団がその他の確率分布のときには $n$が大きければ近似的に
正規分布
$N\left(m,\dfrac{\sigma^{2}}{n}\right)$
に従う。
復習より、$\overline{X}$は、近似的に 正規分布
$N\left(m,\dfrac{\sigma^{2}}{n}\right)$
に従う。
解答イ:3
次のウの式の
$$
\begin{align}
S&=\sqrt{
\dfrac{1}{n}\left\{
\begin{array}{c}
(X_{1}-\overline{X})^{2}+(X_{2}-\overline{X})^{2}+\\
\cdots+(X_{n}-\overline{X})^{2}
\end{array}
\right\}
}\class{tex_formula}{式A}\\
&=\sqrt{\textcolor{red}{\dfrac{1}{n}\left(X_{1}^{2}+X_{2}^{2}+\cdots+X_{n}^{2}\right)}-\fbox{ ウ }}\class{tex_formula}{式B}
\end{align}
$$
は、何だか見覚えがある式だ。
見覚えがないっていう人もいると思うから、標準偏差の計算方法について復習をしておこう。
復習
標準偏差$s$は分散$s^{2}$の正の平方根で
$s=\sqrt{s^{2}}$
である。
復習の式の根号の中の$s^{2}$は分散なので、分散の計算方法も復習しておくと、
復習
データ$\{x_{1},x_{2},\cdots,x_{n}\}$があり、
データの平均値を$\overline{x}$
データの各値の2乗の平均値を$\overline{x^{2}}$
とすると、分散$s^{2}$は、
$$
\begin{align}
s^{2}&=\dfrac{1}{n}\left\{
\begin{array}{c}
(x_{1}-\overline{x})^{2}+(x_{2}-\overline{x})^{2}+\\
\cdots+(x_{n}-\overline{x})^{2}
\end{array}
\right\}\class{tex_formula}{式C}\\
&=\overline{x^{2}}-(\overline{x})^{2}\class{tex_formula}{式D}
\end{align}
$$
である。
このふたつの式は問題によって使い分けるので、両方憶えておこう。
この復習の式Cが、式Aによく似ている。
式C,式Dを使って$X$の標本標準偏差$S$を求めると
$$
\begin{align}
S&=\sqrt{
\dfrac{1}{n}\left\{
\begin{array}{c}
(X_{1}-\overline{X})^{2}+(X_{2}-\overline{X})^{2}+\\
\cdots+(X_{n}-\overline{X})^{2}
\end{array}
\right\}
}\class{tex_formula}{式E}\\
&=\sqrt{\overline{X^{2}}-(\overline{X})^{2}}\class{tex_formula}{式F}
\end{align}
$$
となって、式Aと同じ式Eができる。
ということは、式Bと式Fもきっと同じ式になる。
式Bの赤い部分は、$X_{1}^{2}$~$X_{n}^{2}$をたして$n$で割っているから、$X_{1}^{2}$~$X_{n}^{2}$の平均値だ。
なので
$\dfrac{1}{n}(X_{1}^{2}+X_{2}^{2}+\cdots+X_{n}^{2})=\overline{X^{2}}$
とかける。
よって、式Bは
$S=\sqrt{\overline{X^{2}}-\fbox{ ウ }}$式B'
と変形できる。
式Fと同じ形になった。
この式B'と式Fを見比べると、ウに入るのは
$(\overline{X})^{2}$
であることが分かる。
解答ウ:1
また、$X$の値は$0$と$1$しかない。
$X_{n}=0$のとき、$X_{n}^{2}=0$
$X_{n}=1$のとき、$X_{n}^{2}=1$
だから、
$X_{n}^{2}=X_{n}$
なので、
$\overline{X^{2}}=\overline{X}$
だ。
よって、式B'はさらに
$$
\begin{align}
S&=\sqrt{\overline{X}-(\overline{X})^{2}}\\
&=\sqrt{\overline{X}(1-\overline{X})}\class{tex_formula}{式B''}
\end{align}
$$
と変形できる。
解答エ:2
問題文中の表2より、大きさ$300$の標本は
$75$個の$1$
$225$個の$0$
の集まりなので、標本平均$\overline{X}$は
$$
\begin{align}
\overline{X}&=\dfrac{75\times 1+225\times 0}{300}\\
&=\dfrac{1}{4}\class{tex_formula}{式G}
\end{align}
$$
だ。
これを式B''に代入して、標本標準偏差$S$は
$$
\begin{align}
S&=\sqrt{\dfrac{1}{4}\cdot\dfrac{3}{4}}\\
&=\dfrac{\sqrt{3}}{4}\class{tex_formula}{式H}
\end{align}
$$
と計算できる。
次に、母平均を推定する。
これには公式があった。
公式
母標準偏差を$\sigma$,標本平均を$\overline{X}$,標本の大きさを$n$とすると、母平均$m$の信頼区間を求める式は
$\overline{X}-z\cdot\dfrac{\sigma}{\sqrt{n}}\leqq m\leqq\overline{X}+z\cdot\dfrac{\sigma}{\sqrt{n}}$式I
ただし、信頼区間が$c$%のとき、$z$は 図Aを標準正規分布の確率分布図として、図中の$z_{0}$の値。
特に
信頼度$95$%のとき、$z=1.96$
信頼度$99$%のとき、$z=2.56$
である。
この式Iを使って母平均の信頼区間を求める。
いま、
式Gより、標本平均$\overline{X}=\dfrac{1}{4}$
標本の大きさ$n=300$
信頼度は$95$%なので、$z=1.96$
であることが分かっている。
また、母標準偏差$\sigma$は、問題文の指示に従って代わりに標本標準偏差を使う。
この標本標準偏差は
式Hより、標本標準偏差$S=\dfrac{\sqrt{3}}{4}$
だ。
以上を式Iに代入すると、
$\dfrac{1}{4}-1.96\cdot\dfrac{\dfrac{\sqrt{3}}{4}}{\sqrt{300}}\leqq m\leqq\dfrac{1}{4}+1.96\cdot\dfrac{\dfrac{\sqrt{3}}{4}}{\sqrt{300}}$
とかける。
これを計算して、求める信頼区間は
途中式
$$
\begin{align}
\dfrac{1}{4}-1.96\cdot\dfrac{\dfrac{\cancel{\sqrt{3}}}{4}}{10\cancel{\sqrt{3}}}&\leqq m\leqq\dfrac{1}{4}+1.96\cdot\dfrac{\dfrac{\cancel{\sqrt{3}}}{4}}{10\cancel{\sqrt{3}}}\\
\dfrac{1}{4}-\dfrac{1.96}{4\cdot 10}&\leqq m\leqq\dfrac{1}{4}+\dfrac{1.96}{4\cdot 10}\\
\dfrac{1}{4}(1-0.196)&\leqq m\leqq\dfrac{1}{4}(1+0.196)\\
\dfrac{0.804}{4}&\leqq m\leqq\dfrac{1.196}{4}
\end{align}
$$
より
となる。
解答オ:0
アドバイス
これじゃ原理がゼンゼン分からないけど、原理通り解くと時間がかかるから、共通テスト本番では機械的に公式を使おう。
原理に関してはこのページを参照してほしい。
(2)
(2)では、$U_{4}$,$U_{5}$,$U_{300}$の期待値(平均値)を求める。
$U_{4}$
問題文中の表3から、$U_{4}$は
$0$,$1$
のいずれかの値をとる。
$U_{4}=1$である場合
問題文中の図3より、$X_{1}$~$X_{4}$の値の並びは
$\left\{\begin{array}{l}
1,1,1,0\\
0,1,1,1
\end{array}\right.$
の2パターンある。
この2つのパターンの確率は等しくて、
$$
\begin{align}
p^{3}\cdot(1-p)&=\left(\dfrac{1}{4}\right)^{3}\cdot\left(1-\dfrac{1}{4}\right)\\
&=\dfrac{1}{4^{3}}\cdot\dfrac{3}{4}\\
&=\dfrac{3}{4^{4}}
\end{align}
$$
である。
したがって、$U_{4}=1$である確率$P(U_{4}=1)$は、
$$
\begin{align}
P(U_{4}=1)&=\dfrac{3}{4^{4}}\times 2\\
&=\dfrac{3}{4^{3}\cdot 2}
\end{align}
$$
となる。
以上から、確率変数$U_{4}$の確率分布表を書くと表Bができる。
$U_{4}$ | $0$ | $1$ | 計 |
---|---|---|---|
確率 | (省略) | $\dfrac{3}{4^{3}\cdot 2}$ | $1$ |
表Bより、$U_{4}$の期待値(平均値)$E(U_{4})$は、
$$
\begin{align}
E(U_{4})&=0\cdot \text{(省略)}+1\cdot\dfrac{3}{4^{3}\cdot 2}\\
&=\dfrac{3}{4^{3}\cdot 2}\class{tex_formula}{式J}\\
&=\dfrac{3}{128}
\end{align}
$$
となる。
解答カ:3
アドバイス
問題文中の表3から、
$U_{4}=0$になる場合が$14$パターン
$U_{4}=1$になる場合が$2$パターン
すべての$X_{1}$~$X_{4}$の値の並びは$16$パターン
なので、$U_{4}$の確率分布表は表Cである。
$U_{4}$ | $0$ | $1$ | 計 |
---|---|---|---|
確率 | $\dfrac{14}{16}=\dfrac{7}{8}$ | $\dfrac{2}{16}=\dfrac{1}{8}$ | $1$ |
と考えてはいけない。
このような考え方ができるのは、それぞれのパターンの起こる確率が等しい場合に限る。
問題文中の表3の各パターンは それぞれ起こる確率が異なるから、この方法は使えない。
$U_{5}$
$U_{5}$も、$U_{4}$と同じように考える。
$U_{5}=1$である場合
$U_{5}=1$である$X_{1}$~$X_{4}$の値の並びは
$\left\{\begin{array}{l}
1,1,1,0,?\class{tex_formula}{パターンA}\\
?,0,1,1,1\class{tex_formula}{パターンB}\\
0,1,1,1,0\class{tex_formula}{パターンC}
\end{array}\right.$
の3パターンある。
$?$のところは、$0$と$1$どちらの値でもいい。
それぞれのパターンの確率を求めると、
パターンAが起こる確率は
$$
\begin{align}
p^{3}\cdot(1-p)\cdot 1&=\left(\dfrac{1}{4}\right)^{3}\cdot\left(1-\dfrac{1}{4}\right)\cdot 1\\
&=\dfrac{1}{4^{3}}\cdot\dfrac{3}{4}\\
&=\dfrac{3}{4^{4}}
\end{align}
$$
パターンBが起こる確率は、パターンAと同じ
$\dfrac{3}{4^{4}}$
パターンCが起こる確率は、
$$
\begin{align}
(1-p)&\cdot p^{3}\cdot(1-p)\\
&=\left(1-\dfrac{1}{4}\right)\cdot\left(\dfrac{1}{4}\right)^{3}\cdot\left(1-\dfrac{1}{4}\right)\\
&=\dfrac{1}{4^{3}}\cdot\dfrac{3^{2}}{4^{2}}\\
&=\dfrac{9}{4^{5}}
\end{align}
$$
である。
したがって、$U_{5}=1$である確率は、
$$
\begin{align}
\dfrac{3}{4^{4}} \times 2 +\dfrac{9}{4^{5}}&=\dfrac{3\cdot 4 \cdot 2+9}{4^{5}}\\
&=\dfrac{3(4\cdot 2+3)}{4^{5}}\\
&=\dfrac{3\cdot 11}{4^{5}}
\end{align}
$$
となる。
$U_{5}$が$2$以上である場合
$U_{k}=2$になる最短の値の並びは
$1,1,1,0,1,1,1$
だから、
$U_{k}=2$
になることができる最小の$k$は$7$である。
したがって、$U_{5}$が$2$以上になることはない。
以上から、確率変数$U_{5}$の確率分布表を書くと表Dができる。
$U_{5}$ | $0$ | $1$ | 計 |
---|---|---|---|
確率 | (省略) | $\dfrac{3\cdot 11}{4^{5}}$ | $1$ |
表Dより、$U_{5}$の期待値(平均値)$E(U_{5})$は、
$$
\begin{align}
E(U_{5})&=0\cdot\text{(省略)}+1\cdot\dfrac{3\cdot 11}{4^{5}}\\
&=\dfrac{3\cdot 11}{4^{5}}\class{tex_formula}{式K}\\
&=\dfrac{33}{1024}
\end{align}
$$
となる。
解答キ:3, ク:3
$U_{300}$
$E(U_{300})$を直接求めるのは難しいので、問題文の指示通りの作業をしよう。
座標平面上の点
$(4,E(U_{4}))$,$(5,E(U_{5}))$,$\cdots$,$(300,E(U_{300}))$
はひとつの直線上にあるという。
つまり、図Eのようになるようだ。
図Eのオレンジの直線を考える。
オレンジの直線は$(4,E(U_{4}))$,$(5,E(U_{5}))$を通るので、直線の式は
$y-E(U_{4})=\dfrac{E(U_{5})-E(U_{4})}{5-4}(x-4)$
より
$y-E(U_{4})=\{E(U_{5})-E(U_{4})\}(x-4)$
と表せる。
$(300,E(U_{300}))$はこの直線上にあるので、
$E(U_{300})-E(U_{4})=\{E(U_{5})-E(U_{4})\}(300-4)$
とかける。
これに式J,式Kを代入すると、(※)
$E(U_{300})-\dfrac{3}{4^{3}\cdot 2}=\left(\dfrac{3\cdot 11}{4^{5}}-\dfrac{3}{4^{3}\cdot 2}\right)(300-4)$
より
$$
\begin{align}
E(U_{300})-\dfrac{3}{2^{7}}&=3\cdot\left(\dfrac{11}{2^{10}}-\dfrac{1}{2^{7}}\right)2^{3}\cdot 37\\
&=3\cdot\left(\dfrac{11}{2^{7}}-\dfrac{2^{3}}{2^{7}}\right)\cdot 37\\
&=3\cdot\dfrac{3}{2^{7}}\cdot 37
\end{align}
$$
と変形できる。
これを解いて、$E(U_{300})$は、
$E(U_{300})=3\cdot\dfrac{3}{2^{7}}\cdot 37+\dfrac{3}{2^{7}}$
途中式
$$
\begin{align}
\phantom{E(U_{300})}&=\dfrac{3\cdot(3\cdot 37+1)}{2^{7}}\\
&=\dfrac{3\cdot 112}{2^{7}}\\
&=\dfrac{3\cdot 2^{4}\cdot 7}{2^{7}}\\
&=\dfrac{3\cdot 7}{2^{3}}\\
\end{align}
$$
である。
解答ケ:2, コ:1, サ:8
別解
ケコサについては、他にも解法がいろいろ考えられる。
そのうちのいくつかを紹介しておく。
図Fのように、$(4,E(U_{4}))$を点$\mathrm{A}$,$(5,E(U_{5}))$を点$\mathrm{B}$,$(300,E(U_{300}))$を点$\mathrm{C}$とする。
別解1
直線$\mathrm{AB}$の傾きは
$\dfrac{E(U_{5})-E(U_{4})}{5-4}$
直線$\mathrm{AC}$の傾きは
$\dfrac{E(U_{300})-E(U_{4})}{300-4}$
この2つの傾きは等しいので、
$\dfrac{E(U_{300})-E(U_{4})}{300-4}=\dfrac{E(U_{5})-E(U_{4})}{5-4}$
とかける。
これに式J,式Kを代入して$E(U_{300})$について解くと、ケコサが求められる。
別解2
点$\mathrm{A}$,$\mathrm{B}$,$\mathrm{C}$は一直線上にあるので、$k$を実数として
$\overrightarrow{\mathrm{A}\mathrm{C}}=k\overrightarrow{\mathrm{A}\mathrm{B}}$
と表せる。
よって、
$$
\begin{align}
(300,E(U_{300}))&-(4,E(U_{4}))\\
&=k\{(5,E(U_{5}))-(4,E(U_{4}))\}
\end{align}
$$
より
$\left\{\begin{array}{l}
300-4=k(5-4)\class{tex_formula}{式L}\\
E(U_{300})-E(U_{4})=k\{E(U_{5})-E(U_{4})\}\\
\hspace{200px}\class{tex_formula}{式M}
\end{array}\right.$
とかける。
式Lより、
$k=296$
これと式J,式Kを 式Mに代入して$E(U_{300})$について解くと、ケコサが求められる。
別解3
図Fのように、直線$y=E(U_{4})$と $x=5$,$x=300$との交点を、それぞれ点$\mathrm{D}$,点$\mathrm{E}$とする。
図Fの斜線の三角形と緑の三角形は相似なので、
$\mathrm{AD}:\mathrm{AE}=\mathrm{DB}:\mathrm{EC}$
より
$$
\begin{align}
5-4\ &:\ 300-4\ \\
&=\ E(U_{5})-E(U_{4})\ :\ E(U_{300})-E(U_{4})
\end{align}
$$
だから、
$$
\begin{align}
(5-4)\{E(U_{300})&-E(U_{4})\}\\
&=(300-4)\{E(U_{5})-E(U_{4})\}
\end{align}
$$
とかける。
これに式J,式Kを代入して$E(U_{300})$について解くと、ケコサが求められる。
別解の計算は本解の(※)以降と同じになるので省略する。